【勉強法シリーズ②】「流暢性の罠」──正解できるのに点数が上がらないのはなぜ?

さて今回も、PASSFIND が行なっている勉強方法の「裏付けになる理論」のご紹介です!
前回の【勉強法シリーズ①】では、「問題集をテスト化する」という学習法についてお話ししました。

今回はその続編として、**「理解したはずなのに、テストになると点数が取れない」**というよくある現象を、心理学の視点から解説します。
塾の指導内容の意図が、よりクリアに伝わればうれしいです!

PASSFINDでは、単に「たくさん解く」よりも、「正しい順序で学ぶ」ことを大切にしています。
その背景には、「流暢性の罠(Illusion of Fluency)」と呼ばれる心理学的な落とし穴を避ける、という考え方があります。

1.「できた気がする」=「できる」ではない

勉強をしていて、

「今日はスラスラ解けた!」

「すごく理解できた気がする!」

「授業がわかりやすかった!」

と感じることがあります。
この “スラスラ感” や “わかった気” を、心理学では「処理流暢性(Processing Fluency)」と呼びます。

処理流暢性が高いと、人は「自分はよく理解できている」と感じやすくなります。
ところが、研究では、

「スラスラできたから覚えている」わけではない = むしろ「勘違いしやすい状態」である

ことが繰り返し示されています。

つまり、

授業中はわかったつもりでも、数日後には解けない

家ではスラスラ進んだのに、テストでは歯が立たない

といった現象は、能力の問題ではなく、“流暢性の罠” にハマっているだけというケースが多いのです。

理解した「気分」と、実際に「残っている力」は別物。
PASSFINDでは、このギャップを埋めるためにカリキュラムを設計しています。

2.PASSFINDが“全部やらせない”理由

この「流暢性の罠」を避けるために、PASSFINDではあえて

その場で「全部」やらせない

その場で「完結」させない

という勉強のさせ方をしています。

🔹高校生:基本問題も“最初から全部やらない”

高校生の授業では、問題集の大問ごとに *(スター) がついている基本問題があります。
PASSFINDでは、

  • まずは*のついた問題だけを解いてもらい、
  • そこがすべて正解できたら、残りの問題(*なし問題)にチャレンジしてもらう

というステップを踏んでもらいます。

一見すると「全部やったほうがいいのでは?」と思われるかもしれませんが、
最初からすべてを解いてしまうと、

その場では“スラスラ”進んでしまう

「全部やった=できるようになった」と錯覚しやすい

という流暢性の罠にはまりやすくなります。

あえて半分残しておくことで

次の勉強のタイミングで「前にやった問題をもう一度思い出す」

そのうえで、新しい問題(*なし問題)に挑戦する

という流れを作ることができます。
これにより、“スラスラやって終わり” ではなく、“思い出してから、さらに一歩進む” という学び方になります。

🔹中学生:単元テストは“授業直後”ではなく“次の授業で”

中学生では、単元テストをあえて授業直後に行わず、次の授業のタイミングで実施しています。

その理由はシンプルです。

授業直後のテスト:
→「さっき習ったばかり」の情報が頭に残っており、点数が高く出やすい
→ しかし、それは“本当に覚えている”のではなく、“まだ忘れていないだけ”の状態

1週間ほど空けてからのテスト:
→ いったん忘れかけたところから自分の力で思い出す必要がある
→ ここで解けるかどうかが、本当の定着度

PASSFINDでは、

「習った直後にできるかどうか」よりも、 「時間がたっても自力で思い出せるかどうか」を重視しています。

そのため、あえて「授業直後テストの気持ちよさ(=流暢性)」には乗らず、
“次の週の単元テスト” という仕組みで、定着度をチェックしているのです。

3.「難しさ」は悪ではない──“考える負荷”が記憶を強くする

ここまでを見ると、

スラスラ解ける → 気持ちいいけれど危険

少し考える → 大変だけれど記憶に残る

という構図が見えてきます。

近年の研究では、「教材が少し読みにくかったり、スラスラ進まなかったりする方が、かえって学習者がよく考え、理解が深まることがある」という現象が報告されています。
これは「非流暢性効果(Disfluency Effect)」と呼ばれます。

ただし、「読みにくくすれば必ず成績が上がる」というほど万能な効果ではない

条件や学習者のタイプによっては成績に差が出ないことも多い

という点がとても重要です。

大事なのは、フォントを読みにくくすることではなく

「今、スラスラできているのは、本当に理解しているからなのか?」

「それとも、見慣れているだけ・習ったばかりなだけなのか?」

と、自分で自分の学び方をモニタリングする“メタ認知”を育てることです。

PASSFINDでは、

問題を全部はやらせず、少し残す

テストをすぐにはやらず、次の週に行う

といった工夫を通じて、

簡単すぎず、難しすぎない、 「少し考える」状態を意図的に作る

ように授業をデザインしています。
この「少し考える時間」こそが、記憶を長く残すための大事なスパイスになるのです。

🔹代表的な研究の紹介(読み飛ばして大丈夫です)

ここからは、報告書「処理流暢性が学習者のメタ認知、学習戦略、および学習成績に及ぼす影響に関する研究」でまとめられている研究を、保護者の方向けにかみ砕いてご紹介します。

  • ①「読みにくい=必ず成績アップ」ではない(非流暢性効果の再検証)
    もともと、Diemand-Yauman ら(2011)の研究では、「あえて読みにくいフォントで教材を提示すると成績が良くなる」という結果が報告されました。 しかし、報告書で紹介されている日本の大学生を対象とした2つの追試実験では、「読みにくい条件の方が成績が良くなる」という非流暢性効果は確認されませんでした。
    さらに、読みにくいからといって、特別に高度な暗記方法(イメージ化・関連づけなど)を多く使うようになったわけでもないことが分かりました。 → 結論:「読みにくくすればいい」という単純な話ではなく、非流暢性効果は状況や学習者によって変わる限定的なものだと考えられます。
  • ②「読みにくさ」は『まだできていないかも』という感覚を生み、勉強時間には影響する
    別の実験(流暢なフォントと非流暢なフォントを同時に扱う参加者内計画)では、
    ・学習者は、読みにくいフォントの方を「自分はあまり覚えられていない」と低く評価し、
    ・読みにくいフォントの課題により多くの学習時間を割り当てる傾向が見られました。
    これは、処理流暢性が「自分はどれくらい理解できているか」という感覚(メタ認知)に強く影響していることを示しています。
    一方で、時間を多くかけたからといって必ずしも成績が良くなるわけではないことも分かりました。 → 結論:読みにくさは「まだ覚えていないかも」と気づくきっかけにはなるが、それだけで成績が上がるわけではなく、どう学ぶか(学習方略)がセットで重要だということです。
  • ③ 「わかったつもり」を直すには、“理論を知る”ことが新しい場面にも効く
    報告書では、予見バイアス(Foresight Bias)と呼ばれるメタ認知のズレをどう直すか、という研究も紹介されています。 これは、「答えを見ながら勉強していると『本番でもできそう』と過信してしまう」現象です。過信を直す方法として、
    記憶ベースの是正:実際にテストを経験したり、少し時間をおいてから自分のでき具合を判断したりする方法(遅延JOLや練習テスト)と、
    理論ベースの是正:なぜ「わかったつもり」が起こるのか、その仕組みを言葉で説明して理解してもらう方法、
    の2つが比較されました。

    その結果、同じリスト(同じ問題)に対してはどちらの方法も効果があったものの、
    新しい内容に対しても効果が転移したのは「理論ベースの是正(仕組みの解説)」の方だったことが分かりました。 → 結論:「こういうときに“わかったつもり”が起こるよ」という原理を知っていると、新しい単元でも自分でブレーキをかけられるようになる、ということです。

これらの研究から分かるのは、

  • 「スラスラできる」という感覚はとても強い“ご褒美”に見えるが、しばしば過信を生むこと
  • 「読みにくさ」そのものよりも、自分の学び方を振り返る視点(メタ認知)を育てる方が、さまざまな場面に応用がきくこと

です。
PASSFINDが、「少し考える時間を残す」「テストで現実の定着度を見せる」「勉強法そのものを説明する」といった指導を行っているのは、まさにこの研究結果を踏まえたものです。

4.「できた気分」ではなく、「残る力」を育てる

ここまでの内容を、PASSFINDの実際の指導と結びつけて整理すると、次のようになります。

  • 高校生:
    基本問題も最初から全部は解かせず、*のついた問題をクリアしたあとで、残りの問題にステップアップ。
  • 中学生:
    単元テストは授業直後ではなく、次の授業で実施し、「時間がたっても思い出せるか」をチェック。
  • 全学年共通:
    「スラスラできた量」よりも、「あとから自力で思い出せる量」を増やすことを重視。

このように、PASSFINDのカリキュラムは、

その場での「わかった気分」ではなく、 時間がたってからの「残っている力」を育てること

を目的として組み立てられています。

5.まとめ:「スムーズな学び」より「考える学び」

スラスラ進む授業、たくさん問題を解いて“やった感”がある勉強は、やっていて気持ちがいいものです。
しかし、テストで力を発揮するのは、

少し立ち止まって考えた経験

時間がたってから思い出した経験

「あれ、どうだったっけ?」を乗り越えた経験

のほうです。

「スラスラできた」は安心、 「少し悩んだ」は成長。

PASSFINDは、学びの“心地よさ”だけでなく、
「あとからちゃんと点数につながる学び」を提供したいと考えています。

そのために、「全部やらせない」「すぐテストしない」「少し考える場面を残す」といった、
一見まわり道に見える工夫を、あえて取り入れています。


📘次回予告:
【勉強法シリーズ③】「インターリーブ学習」──単元を“混ぜる”ことで理解が深まる理由